ステロイド外用剤に不安な方へ
ステロイドとは
ステロイドとは体内で産生されるホルモンの一つです。
医師が処方するステロイドは、体内の臓器である腎臓の上端にある副腎で産生される
通常のホルモンであるコルチコステロイドを人工的に合成して効果を高めたものです。
このステロイドホルモンは体の中の炎症を抑えたり、体の免疫力を抑制したりする作用があり、さまざまな疾患の治療に使用されています。
ステロイド外用剤の効果
ステロイド外用剤の効果で最も重要なものは炎症を抑える作用で、皮膚の荒れや赤みなどの皮膚炎を速やかに鎮めてくれます。
その他には細胞増殖抑制作用、血管収縮作用、免疫抑制作用などがあげられます。
ステロイド外用剤の副作用
アトピー性皮膚炎の治療で通常使用するのはステロイド外用剤です。
外用で大量に長期間使用しない限り、重篤な副作用はまず起こりません。
内服の場合は糖尿病・高血圧・肥満・易感染・精神症状・病的骨折など副作用も多いため使用には注意が必要です。
しかし、外用剤でも副作用が全くないわけではありません。
ステロイド外用剤の副作用としては、皮膚萎縮・毛細血管拡張・多毛・色素脱失・にきび・感染症(とびひ・水虫・ヘルペス・・・)などの局所的なものが挙げられます。これらの副作用のほとんどは一過性であり、適切に治療すれば治ります。
外用剤の種類・外用部位・使用量・方法・期間など、医師の指示を守らず使用していると、このような副作用の出現頻度は増えてしまいます。またよく言われるステロイド外用剤により皮膚が黒くなるということはありません。
ステロイドバッシングの歴史
1992年7月、高視聴率番組であるニュースステーションのアトピー性皮膚炎の特集にて、
メインキャスターの「ステロイド外用剤は最後の最後まで使ってはいけない薬」
と誤った発言をしたことをきっかけに、ステロイド恐怖症のアトピー性皮膚炎患者さんが急増しました。
その後、マスコミがステロイドは毒、脱ステロイド療法が大切という情報を垂れ流し、
それに便乗した間違った民間療法、医学的根拠のない健康食品販売、効果の無い高価な機材販売など
”アトピービジネス”と言われる悪徳商法が氾濫しました。
残念な事にこれら情報に翻弄され、適切な治療を受けられず重症化してしまうアトピー性皮膚炎の患者さんが増えてしまいました。
ステロイド外用剤は
怖い薬ではない
このような事態を改善するために日本皮膚科学会が2000年5月に「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」を作成し、ステロイドの適正な使用が正しいアトピーの治療法であるという基本的な治療方針を示しました。
それから、20年以上経った現在においてもステロイド恐怖症・ステロイド忌避の患者さんはまだある一定数おられます。本当は適切に治療を行えばステロイド外用剤は怖いものではないのです。
また、最近でも「ザ!世界仰天ニュース(2021年9月)」にて”脱ステロイド療法”について取り上げられ、
混乱を招きました。
ステロイド外用剤の種類
ステロイド外用剤にはさまざまな種類がありますが、抗炎症作用の強さを基準に5段階に分類されています。
一般的に作用が強いものほど副作用も強くなるといわれています。
症状に応じて副作用と照らし合わせながら細かく薬剤を選択していていきます。
ステロイド外用剤、薬効ランク
ステロイド外用剤は強さの段階が5ランクあります。どの薬を使うか、部位や症状に合わせて微妙な強さ加減の調節が必要です。
薬剤成分名 | 先発品名 | |
---|---|---|
ストロンゲスト | クロベタゾールプロピオン酸エステル | デルモベート |
ジフロラゾン酢酸エステル | ダイアコート | |
ベリーストロング | 酪酸プロピオン酸ベタメタゾン | アンテベート |
ジフルプレドナート | マイザー | |
ベタメタゾンジプロピオン酸エステル | リンデロンDP | |
フルオシノニド | トプシム | |
モメタゾンフランカルボン酸エステル | フルメタ | |
アムシノニド | ビスダーム | |
吉草酸ジフルコルトロン | ネリゾナ | |
ストロング | プロピオン酸デキサメタゾン | メサデルム |
フルオシノロンアセトニド | フルコート | |
デキサメタゾン吉草酸エステル | ボアラ | |
ベタメタゾン吉草酸エステル | リンデロンV・ベトネベート | |
デプロドンプロピオン酸エステル | エクラー | |
マイルド | 吉草酸酢酸プレドニゾロン | リドメックス |
アルクロメタゾンプロピオン酸エステル | アルメタ | |
クロベタゾン酪酸エステル | キンダベート | |
ヒドロコルチゾン酪酸エステル | ロコイド | |
ウィーク | プレドニゾロン | プレドニゾロン |
2020/12現在
部位別吸収率
ステロイド外用剤は使用部位により、皮膚への吸収率が大きく変動します。
そのため、部位に適したレベルのステロイド外用剤を使用する必要があります。また年齢によっても吸収率が変わります。
決められた部位以外に使用すると、副作用の発現率が数倍に跳ね上がる危険性がありますので、
医師の指示に従い正しく使用することが重要です。
図のように身体の部位により、ステロイド外用剤の吸収率は
大きく異なります。
例えば、前腕の使用用途に処方された外用剤をあごに使用した場合、あごは前腕より13倍吸収されやすく、その分副作用も13倍発現しやすくなります。
適切な部位に使用することが非常に大切です。
決して処方外の部位に指示以外のステロイド外用剤を使用しないでください。
ステロイド外用量
必要十分な量の外用剤を擦り込まず塗る事が重要です。
ステロイド外用剤の効果をしっかり得るために必要な量の目安として、
1FTU(finger tip unit/フィンガーチップユニット)という単位があります。
これは大人の人差し指の先端から第一関節までチューブから絞り出した量(約0.5g)を、
両方の手のひら分の面積に外用するという考え方。
ステロイド外用剤を塗るときの目安として世界で広く使われています。
1FTUを用いた外用法はかなり多いと感じると思いますが、
ステロイド外用剤はたっぷり塗ることで十分な効果が得られます。
塗る量が少ないと、本来の薬剤の効果が得られにくくなります。
早く病状を改善するためにも、医師の指示通りたくさん、
そして擦り込まずに外用して下さい。
ステロイド期間
長期間漫然とステロイドを外用していると副作用の発現率が上がってきます。
早期から症状に適したステロイド外用剤を短期間に集中して使用し、病状を改善させることが副作用を減らすコツです。
患者さんの病状、職業、生活様式によって治療法は変わってきますので、
それぞれの方に適した治療方法を患者さんと相談しながら選択します。
まとめ
- 1ステロイド外用剤は安全であり、皮膚の炎症を抑えるために必要である。
- 2どのランクのステロイド外用剤を使用するか、年齢・部位や症状に合わせて細かく調整する必要がある。
- 3外用は医師の指示に従い、たっぷりの量を刷り込まずに塗布する。